けだし佐助が忍び出た物干台というのは店舗の屋上にあったのであろうから真下に寝ている店員共よりも中前栽を隔てた奥の者が渡り廊下の雨戸を開けた時にまずその音を聞きつけたのである。
奥からの注意で店員共が取り調べられ結局佐助の所為と分って一番番頭の前に呼びつけられ大眼玉を喰った上に以後は断じて罷りならぬと三味線を没収されたことは当然の成行を見た訳であるが、この時意外な所から佐助に救いの手が伸ばされたとにかくどのくらい弾けるものか聴いてみたいという意見が奥から持ち出されたのであるしかもその首唱者は春琴であった。
佐助はこの事が春琴に知れたら定めし機嫌を損ずるであろうただ与えられた手曳きの役をしていればよいのに丁稚の分際で生意気な真似をすると憫殺されるか嘲笑されるか、どっちみち碌なことはあるまいと恐れを抱いていただけに「聴いてやろう」と云われるとかえって尻込みをした。