また朝夕に部屋の掃除を励行せしむること厳密を極め、坐するごとに一々指頭をもって座布団畳等の表面を撫で試み毫釐の塵埃をも厭いたりき。
かつて門弟の胃を病む者あり、口中に臭気あるを悟らず師の前に出でて稽古しけるに、春琴例のごとく三の絃を鏗然と弾きてそのまま三味線を置き、顰蹙して一語を発せず、門弟為す所を知らずして恐る恐る理由を問うこと再三に及びし時、妾は盲人なれども鼻は確なり、匇々に去って含嗽をせよと云いしとぞ」と。
盲人なるが故にかくのごとく潔癖だったのでもあろうがまたこういう人が盲人であったとすると身の周りの世話をする者の心づかいは推量に余る。