彼女はまた非常にお洒落であった失明以来鏡を覗いたことはなくとも己れの容色については並々ならぬ自信があり衣類や髪飾りの配合等に苦労することは眼明きと同じであった思うに記憶力の強い彼女は九歳の時の己れの顔立ちを長く覚えていたであろうしその上世間の評判や人々のお世辞が始終耳に這入るので自分の器量のすぐれていることはよく承知していたのであるされば化粧に浮身を窶すことは大抵でなかった。
常に鶯を飼っていて糞を糠に交ぜて使いまた糸瓜の水を珍重し顔や手足がつるつる滑るようでなければ気持を悪がり地肌の荒れるのを最も忌んだ総べて絃楽器を弾く者は絃を押える必要上左手の指の爪の生え加減を気にするものだが必ず三日目ごとに爪を剪らせ鑢をかけさせたそれが左の手ばかりでなく両手両足に及んだ剪ると云ってもほとんど眼に見えて伸びていないわずかに一厘二厘に過ぎないのをいつも同じ恰好に正確に剪るように命じ剪った痕を一つ一つ手でさぐって見て少しでも狂いがあることを許さなかった佐助は実にこのような世話を一人で引き請け合間にはまた稽古をしてもらい時にはお師匠様に代って後進の弟子達に教えもした
肉体の関係ということにもいろいろある佐助のごときは春琴の肉体の巨細を知り悉して剰す所なきに至り月並の夫婦関係や恋愛関係の夢想だもしない密接な縁を結んだのである後年彼が己れもまた盲目になりながらなおよく春琴の身辺に奉仕して大過なきを得たのは偶然でない。