正式の夫であるならあるいはせめて情夫としての待遇を受けているなら文句の出どころはなかったけれども表面はどこまでも手曳きであり奉公人であり按摩から三介の役まで勤めて春琴の身の周りの事は一切取りしきり忠実一方の人間らしく振舞っているのを見ては、裏面の消息を解する者には片腹痛く思えたでもあろうああ云う手曳きならちっとやそっと辛いことがあっても己だって勤める感心するには当らぬと嘲る者も少くなかった。
されば佐助に憎しみをかけ春琴の美貌が一朝恐ろしい変化を来たしたらあいつがどんな面をするかそれでも神妙にあの世話の焼ける奉公を仕遂げるだろうかそれが見物だと云う全くの敵本主義からでも決行しないとは限らない。
要するに臆説紛々としていずれが真相やら判定し難いがここに全然意外な方面に疑いをかけようとする有力な一説があって曰く、恐らく加害者は門弟ではあるまい春琴の商売敵である某検校か某女師匠であろうと。