佐助は我が眼前朦朧として物の形の次第に見え分かずなり行きし時、俄盲目の怪しげなる足取りにて春琴の前に至り、狂喜して叫んで曰く、師よ、佐助は失明致したり、もはや一生お師匠様のお顔の瑕を見ずに済むなり、まことによき時に盲目となり候ものかな、これ必ず天意にて侍らんと。
春琴これを聴きて憮然たることやや久し矣」と。
佐助が衷情を思いやれば事の真相を発くのに忍びないけれどもこの前後の伝の叙述は故意に曲筆しているものと見る外はない彼が偶然白内障になったと云うのも腑に落ちないしまた春琴がいかに潔癖でありいかに盲人の思い過しであろうとも天稟の美貌を損じなかった程度の火傷であるならば何をもって頭巾で面体を包んだり人に接するのを厭ったりしようぞ事実は花顔玉容に無残な変化を来したのである。