お宅様ではお家の宝物を大切にしていらしって、めったに人にお見せにならぬそうですが、無躾ながらその品を見せて戴きに参ったのです」と云うと、「いえ、人に見せぬと申す訳ではありませぬが」と当惑そうにオドオドして、実はその品物を取り出す前には、七日の間潔斎せよと云う先祖からの云い伝えがある、しかし当節はそんなやかましいことを云ってもいられないから、希望の方には心安く見せて上げようと思っているけれども、日々耕作に追われる身なので、不意に訪ねて来られては相手になっている時間がない。
殊に昨今は秋蚕の仕事が片附かないので家じゅうの畳なども不断は全部揚げてあるような訳だから、突然お客様が見えても、お通し申す座敷もないと云う始末、そんな事情で、前にちょっと知らせて置いて下すったら、必ず何とか繰り合わせてお待ちしている、と、真っ黒な爪の伸びた手を膝の上に重ねて、云いにくそうに語るのである。
して見れば、今日は特に私たちのために、このふた間の部屋へわざわざ畳を敷き詰めて待っていてくれたに違いない。