しかし「いたわしや母上は花の姿に引き替えて」と云い、「母も招けばうしろみ返りて、さらばと云わぬばかりにて」と云い、逃げて行く母を恋い慕う少年の悲しみの籠っていることが、当時の幼い自分にも何とはなしに感ぜられたと見える。
その上「野越え山越え里打ち過ぎて」と云い、「あの山越えてこの山越えて」と云う詞には、どこか子守唄に似た調子もある。
そしてどう云う連想の作用か、「狐噲」と云う文字も意味も分るはずはなかったのに、そののち幾たびかこの曲を耳にするに随って、それが狐に関係のあるらしいことを、おぼろげながら悟るようになった。