それがあの手紙にある「おりと」―――津村の母の姉に当る婦人だったのである。
この老媼は彼の熱心な質問の前にオドオドしながら、もう消えかかった記憶の糸を手繰り手繰り歯の抜けた口から少しずつ語った。
中には全く忘れていて答えられないこと、記憶ちがいと思われること、遠慮して云わないこと、前後矛盾していること、何かもぐもぐと云うには云っても息の洩れる声が聴き取りにくく、いくら問い返しても要領を掴めなかったことなどがたくさんあって、半分以上はこちらが想像で補うより外はなかったが、とにかくそう云う風にしてでも津村が知り得た事柄は、母に関する二十年来の彼の疑問を解くに足りた。