しかし婆さんのおぼろげな記憶によると、妹が津村家へ縁づいてから、彼女の母は一度か二度、大阪へ会いに行ったことがあるらしく、今では大家の御料人様に出世した結構ずくめの娘の身の上を驚異をもって語っていた折があった。
そして彼女にも是非大阪へ出て来るようにと言づてを聞いたけれども、そんな所へ見すぼらしい姿で上れるはずもなし、妹の方もあれなり故郷を訪れたことがなかったので、彼女はついぞ成人してからの妹と云うものを知らずにいるうち、やがてその旦那様が死に、妹が死に、彼女の方の両親も死に、もうそれからはなおさら津村家との交通が絶えてしまった。
おりと婆さんはその肉親の妹、―――津村の母のことを呼ぶのに「あなた様のお袋さま」と云う廻りくどい言葉を用いた。