おまけに前夜降雨があって、二の股川の水嵩がにわかに殖え、丸木橋が落ちたり崩れかかったりしていて、激流の逆捲く岩の上を飛び飛びに、時には四つ這いに這わないと越えることが出来ない。
二の股川の奥に「オクタマガワ」があり、それから地蔵河原を渡渉して、最後に三の公川に達するまで、川と川との間の路は、何丈と知れぬ絶壁の削り立った側面を縫うて、ある所では両足を並べられないほど狭く、ある所では路が全く欠けてしまって、向うの崖からこちらの崖へ丸太を渡したり、桟を打った板を懸けたり、それらの丸太や板を宙で繋ぎ合わして、崖の横腹を幾曲りも迂廻したりしている。
こんな所を歩くのは、山岳家なら朝飯前の仕事であろうが、私は元来中学時代に機械体操が非常に不得手で、鉄棒や棚や木馬にはいつも泣かされた男なのである。