わたくしはおくがたがお城をおたちのきなされましたとき、「いっしょにつれて行ってやりたいが、いったんこゝをおちのびてからたよっておいで」と、有りがたい仰せがござりましたものですから、この身はすでになきものとかくごいたしておりましたのがまよいのこゝろをしょうじまして、おのりものゝあとからまぎれ出で、かっせんのしゞゅうを見とゞける迄いちにちふつかは町かたにかくれておりましたけれども、またおそばをしとうて上野守どのゝ御陣へあがりましたところ、気にいりの座頭であるからとおこえがゝりがござりましたので、さいわいにきびしいおとがめもござりませんで、ふたゝび御用をつとめておったのでござります。
されば秀吉公がおこしなされましたおりにもたび/\お次にひかえておったのでござりますが、はじめて御たいめんのときは、御前へ出られますとはるかにへいふくされまして、「わたくしが藤吉郎にござります」とうや/\しい御あいさつでござりましたので、おくがたもつゝましやかに御えしゃくを返され、せんじんの骨折をおねぎらいなされました。
ひでよし公は、「わたくし、このたびさせる軍功もござりませぬのに御褒美としてあさいどのゝ所領をたまわり、もったいなくも長政公のおんあとをつぎますことは弓矢とってのめんぼくでござります、たゞこのうえは何事も古きおしおきにしたがって江北をとりしずめ、亡きおん大将の武ゆうにあやかりとうぞんじます」と申され、「陣中のことゆえさぞ御不じゆうでござりましょう、なんぞお手まわりのしなにても御不足のものはござりませぬか、おこゝろおきのうお申しつけくださりませ」などゝ、それは/\如在のないおことばで、おどろくばかりあいそのよいお方でござりました。