おとしから云えばわんぱくざかりの時分でござりましたけれども、貴人のおうまれでありながら幼いときよりひかげものゝようにおそだちなされ、どこかにこゝろぼそそうなあわれな御様子がおありになって、御前へ出られてもおくちかずがすくなく神妙にしていらっしゃいましたので、わたくしなどには、いらっしゃるのかいらっしゃらないのか分らないくらいでござりました。
もっとも此のお児のおふくろさまは長政公のいもうと御でござりましたから、ひめぎみたちとはいとこ同士、おくがたは義理の伯母御におなりなされます。
それで万ぷく丸どのゝことをしのばれるにつけても此のお児をいとしがられまして、「わたしが母御のかわりになって上げますよ、用のないときはいつでもこゝへあそびにおいで」と仰っしゃって、なさけをかけてお上げなされ、「あの児はだまっているけれども腹にしっかりしたところがある、きっと利発ものにちがいない」とおほめになっていらっしゃいました。