わたくしがきよすにおります時分は、よう/\流行しはじめたころでござりましたから、最初はほんの腰元しゅうの憂さはらしに、扇で拍子をとりながら小ごえでそっとうたいまして、節をおしえて上げたりしたのでござりますが、お女中がたは今申し上げたおかしな文句のうたがおすきで、あれをうたわせてはころ/\とおわらいになるものですから、いつしかおくがたのお耳にとまりまして、「わたしにもうたってきかせておくれ」と仰っしゃるのでござりました。
「なか/\、あなたがたにおきかせ申しますようなものでは」と、御じたい申し上げましても、「ぜひにうたえ」と御意なされますので、それからはたび/\御前へ出ましてうたったことがござります。
「おもしろの春雨や、花のちらぬほどふれ」と申す、あの文句をたいそうおこのみなされ、あれをいつでも御所望あそばされまして、いったいにうき/\としたものよりは、しんみりとした、あわれみのふかいものゝ方がおすきのようでござりました。