もっともあのかたはみずから一流をはつめいなされましたほどの名人、それにくらべたらわたくしなどはものゝかずでもござりませぬが、清洲のおしろで十年の春秋をすごしまするあいだ、あけくれおくがたのおそばをはなれず、月ゆき花のおりにふれて風流のお相手をつとめまして、ひとかたならぬ御恩をこうむりましたのも、いさゝかおんぎょくをたしなみましたがゆえでござります。
人の望みはいろ/\でござりまして、何がいちばんの果報とも申されませぬから、わたくしのようなきょうがいをあわれとおぼしめすかたもござりましょうなれども、じぶんの身にとり此の十ねんのあいだほどたのしいときはござりませなんだ。
さればなか/\隆達どのをうらやましいともおもいませぬ。