もはやほっこくもさくらのはながちり春のなごりのおしまれる季せつでござりまして、おこしいれのゝちはじめての御しゅつじんでござりましたから、うちあわび、かちぐり、こんぶなど、おくがたはことにこゝろをこめておさかなの御用意をあそばし、御主殿においてかどでをおいわいなされました。
かついえ公はごきげんよく御酒をまいられ、たゞ一戦にてきをほろぼし藤吉郎めのくびを取って、月のうちにはみやこへのぼってみせようぞ、かならず吉左右を待っておられよと仰っしゃって、それより中門へたちいでられ、おくがたもそこまでおみおくりなされましたが、そのときとのさまが門のほとりに弓杖をついておたちなされ、お馬にめそうとなされますと、お馬がいなゝきましたので、おくがたのおかおいろがかわったと申すことでござります。
なれども、このおり、岐阜においては三七どのがふたゝび上方をてきになされて柴田がたに内応あそばし、やまとの筒井じゅんけいどのも日ならずうらぎりをなさる手筈がきまっておりましたそうでござります。