なれどもこれはひでよし公の御ほんしんでござりましたかどうか。
ちくぜんどのはお市御料をいけどりにしたくてそろ/\おくの手を出しおったと、味方はもとより敵の陣中でさえそんなひょうばんが立ったくらいでござりまして、此のおあつかいをまじめにきくものはござりませなんだ。
ましてとのさまは、おれにこうさんしろなどゝはぶれいなことを申すやつだと、上人にむかってれっかのごとくいきどおられまして、勝つも負けるも時の運であるのは申すまでもないこと、それをおのれらにおしえられようか、世が世ならば猿面かんじゃめをあべこべに追いつめて腹をきらせてくれようものを、さくまげんばがおれの云いつけを守らなんだために賤ヶ岳においておくれをとり、猿奴にてがらをえさせたのは無念である、たゞこのうえは天守に火をかけて自害をするから、最後の様子をのちの世の手本に見ておくがよい、もっとも城には十余年来たくわえておいた玉薬がある、これが燃えたらおびたゞしい死人を出すだろうから、寄せ手はもっと陣をとおくへ引いていろ、おれはむやくのせっしょうをしたくないからそう云うのだ、かえったらひでよしにきっとそのむねをつたえておけとおっしゃって、さっさと座を立ってしまわれましたので、お使者もとりつくしまがなくて逃げだされたのでござりました。