わたくしそれをきゝましたときは、たった一つのたのみのつなも切れましたことゝて、うらめしいやらなさけないやらでござりましたけれども、こうなってはむざんやおくがたのおいのちもないにきまった、この上は三途の川のおともをしてすえながくおそばにおいていたゞくとしよう、どうか来世はめあきにうまれておうつくしいおすがたをおがめるようになりたいものだ、自分にとってはそれこそ真如の月のかげだと、そういうふうにかんねんのほぞをかためましたら、それが何よりのぜんちしきになりまして、死ぬ方がかえってたのしいくらいにおもわれて来たのでござりました。
とのさまも、かくなりはてたのはなんともくちおしいしだいだけれども、いまさらとこう云うにもおよばぬ、しょせんこよいはこゝろよくさけをくみかわして、あすの夜あけにはしのゝめの雲ともろともにきえて行こうとおっしゃってそれ/″\御用意をあそばされ、天守をはじめ要所々々へ枯れ草を山のごとくにつみかさねていざといえば火をつけるように手はずをとゝのえられまして、さてあるだけの名酒の樽をのこらず持ってまいれとの御諚でござりました。
そんなしたくをいたしますうちにはや暮れがたになりましたが、てきの陣屋も城中のかくごのほどを見てとりましたか、おい/\かこみをゆるめまして、はるかうしろの方へひきましたので、あれ、あのように寄せ手のかゞり火が遠くなったぞ、さすがにひでよしはおれのこゝろを知っているなと、世にもすゞしげにおっしゃいましたのが、いつものおこえのようではなくて、とうとくきこえましたことでござります。