「おひいさま、おひいさま」と、つゞけてお呼び申しましても、お茶々どのはうずまくけぶりに気をうしなっていらっしゃいまして、なんとも御へんじがござりませなんだが、それにしてもいまのお侍は、なぜ御自分がひめぎみをおたすけ申さずに、めくらのわたくしへおあずけなされましたことか。
おおかたそのお侍は忠義一途にとのさまのおあとをしたい、此処を御じぶんの死に場所とさだめておられたのでござりましょうか。
さすればわたくしとても、おくがたの御せんどをみとゞけずに逃げるという法はないと、そうおもいましたことでござりますけれども、でもこのお児をおたすけ申さなんだら、さぞやおふくろさまがおうらみあそばすことであろう、弥市、おまえはわたしのたいせつなむすめをどこへ捨てゝ来たのですと、あの世でおとがめをこうむったら申しわけのみちがない、こうして背中へおのせ申すようになったのはよく/\のえんというものだからと、そんなふうにもかんがえられましたし、それに、わたくし、ほんとうはそんなことよりも、せなかのうえにぐったりともたれていらっしゃるおちゃ/\どのゝおんいしきへ両手をまわしてしっかりとお抱き申しあげました刹那、そのおからだのなまめかしいぐあいがお若いころのおくがたにあまりにも似ていらっしゃいますので、なんともふしぎななつかしいこゝちがいたしたのでござります。