それと申しますのは、てんしゅに火をつけ裏ぎり者のてびきをいたしましたことを姫ぎみたちもおきゝなされましたとみえて、しだいにおにくしみがかゝりまして、なんとなくよそ/\しくあそばすようにおなりなされ、とりわけお茶々どのなどは、「この座頭ゆえにおしからぬいのちをたすけられて、おやのかたきの手にわたされた」と、ときにはわたくしへきこえよがしにおっしゃいますので、おそばにつかえておりましても針のむしろにすわるおもいがいたしまして、このくらいならなぜあのおりに死なゝかったかと、たゞもうなさけなく、とりつくしまのない身のうえをかこつようになったのでござります。
もとよりこれも自分が悪事をしでかした罰でござりまして、たれをうらむべきすじもないのでござりますが、いったん死におくれましてはいまさらお跡をしとうたところでおくがたにあわせる顔もござりませぬから、諸人のつまはじきを受けながら生き耻じをさらしておりますうちに、もみりょうじも、琴のおあいても、余人に仰せつけられまして、もうわたくしにはとんと御用がないようになってしまいました。
ひめぎみたちはその時分安土のおしろに引きとられていらっしゃいまして、ひでよし公のおことばがござりましたばかりにいや/\ながらわたくしを召しつかっておられましたので、それを知りましてはむりにお慈悲にすがりますこともこゝろぐるしく、もはや辛抱もいたしかねまして、或る日、こっそりと、おいとまごいの御あいさつもいたさずに逃げるようにおしろをぬけて、どこと申すあてもなくさすらい出たのでござります。