そしてその肉片がポロリと床へ落ちたのを反射的に拾い上げながら、一方の遣戸を押し開いて逃げた。
凡そ英雄豪傑の伝記を読むと、何となく天がその人の運命に特別な冥護を垂れ、彼はそのお蔭で、しば/\常人の企て及ばざる危地を蹈みながら無事に虎口を脱出するかの如くに見える。
たとえば法師丸の此の場合などもその一例で、彼が行きがけの駄賃に屍骸の鼻を斬ったのは、口惜し紛れの腹癒せであったか、せめて目的の一端を果たす気であったか、或は、大胆な少年もさすがにその時は狼狽した結果であったか、そこのところはよく分らないけれども、兎に角彼がその鼻を持って逃げなかったら、或は捕えられていたかも知れない。