ともすれば魂を天外へ連れて行こうとする幻影の魅惑を、彼は手を振って追い拂うようにしながら、第一に何者の仕業であるかを見極めようとした。
此の日、城中の兵は必死の覚悟で斬って出で、寄手の陣を無二無三に衝き崩そうとかゝっていたので、戦場は最も激しい乱闘の巷と化し、此処でも彼処でも戦線が喰い違い、則重の本陣近くでも競り合いが続けられていたのであったが、いち早く弾丸の放たれた方へ視線を向けた河内介は、二丁程の距離を隔てゝじっと此方を窺いながら立っている一人の武士の姿を認めた。
それは黒漆の胴に金蒔絵のある立派な具足を着けた武士で、河内介が直覚的に「彼奴だ」と感じたとき、第三弾を放とうとして身構えていたその男は、慌てゝ銃を捨てゝ逃げた。