そうして駿河守の娘の場合は、たま/\無意識に浮かべた微笑が対照的に残忍な色を帯びたに止まるけれども、此の上﨟の品のよい頬にのぼるものは、深くもたくまれた、此のうえもない冷嘲をふくむ笑いである。
おもてに貞淑をよそおいながら心ひそかに復讐の快味を喫する人の、意地のわるい笑いである。
河内介は、一方にそう云う恐ろしい執念を持つ夫人を考え、一方に、彼女の苦肉の詐術に懸って生きながら不具にされる夫則重を考え、それらの「美」と「醜」とを表わす二つの顔を並べて空想してみると、それが彼に与える物狂おしいよろこびは屋根裏の時の比ではないのであった。