彼は此の前、自分が首になりつゝも知覚を失わずにいるものと仮定して、娘の膝の前に置かれ、その手に弄ばれることを無上の幸福であるかのように夢みたのであったが、今や自分に最も馴染みのある一人の男子が、現実に生きたまゝの「女首」となって彼の妻からつめたい凝視を浴びせられる。
―――その光景をやがて眼のあたりに見ることが必ずしも不可能ではないのであった。
読者諸君も御承知の通り、元来我が国の史伝、―――特に武門の政治の確立した鎌倉以後のそれは、英雄豪傑の言行を記すことの甚だ懇切である割り合いに、彼等を生み、裏面にあって彼等を操ったであろうところの婦人の個性と云うものを、全く認めていないように見える。