丘の頂辺の平地のぐるりには一圓に土塀が繞らしてあり、それに接して直ぐに切っ立ったような急な石崖があり、石崖から下の斜面は地山のまゝに捨てゝあって、草がぼう/\と伸びていたり、ところ/″\断崖絶壁があったり、物凄い原始林が小暗く繁っていたりして、そのあたりへ行くと、人跡稀な深山幽谷へ迷い込んだような気がするのである。
或る日の午後、河内介は例の如く石崖の下の淋しい場所へやって来て、木の根に腰をかけながら茫然としていたが、彼の眼は自らその石崖の上に聳え立つ土塀を超えて、鬱蒼と蔽いかぶさっている奥庭の森の梢に、その梢の間に隠見する建物の屋根に注がれた。
そして、「あゝ、あの辺が御殿なのだなあ」と思うと、こんなに近くまで来ていながら、その人の忠実な家来となってどんな忘恩の仕事にでも手を貸そうと云う自分の心を訴える道のないことが、つく/″\恨めしくもあり、又それ故に恋いしさは一層ひし/\と迫るのだった。