大方殿は、彼が持ち帰りました此の品を、用なきものと思し召して屍骸と一緒にお取り捨てになったのでござりましょう。
なれども私、ひとり思案をいたしまして、仮りにも敵の大将のお形見を此のように粗末にしては道に外れる、不思議な縁で此れが自分の手に入ったのも侍冥利であるからには、殿の御料簡はどうであろうと、自分は自分で武門の義理を立てねばならないと、ひそかにそれを戴いて帰りまして、朱肉に漬けておきましたのでござりますが、政高公の御最期を思いますにつけ、あわれ此の品を薬師寺殿の御一族にお返し申す折もあらばと考えながら、今日まで大切にお預かり申しておりました。
さ、御台様、わたくしがこれを持っておりましたのは斯様な訳でござります」