あの時わたしは御病死だと聞かされて、そうだとばかり思い込んでいましたけれども、お母様やお兄様が御臨終のお顔を拝ませて下さらないので、内證で乳母にせがんだのです。
乳母はわたしがあまりうるさく云うものですから、しまいに我を折って、『ではそうっと拝ませて上げますが、実はお父様は御病気でおかくれになったのではないのですよ、お父様のお姿がどんなに変り果てゝいらしっても、びっくりなすってはいけません』と、何度も念を押してからこっそり拝ませてくれました。
あゝ、ほんとうに、他人の其方が聞いてさえ好い心持はしないのですもの、その時のわたしの口惜しさはどれほどでしたか。