それが河内介の胸の奥に潜む変態的慾望のさせる業であるとは、まさか桔梗の方に分る筈はないから、他に彼女を頷かせる何等かの理由が、―――たとえば河内介の方にも別に筑摩家に恨みを含む行き掛りがあったとか、或は筑摩家の恩に背いても彼女のために盡すべき義理合いがあるとか、何かしらそう云うことがなければならない。
斯く考えて来れば、彼女があのまやかし物の「父の形見」を見せられて一時は情に絆されたとしても、遂に全く心を許して復讐の大事を彼に委ねるに至ったのには、尚相当の径路があったことゝ想像される。
「筑摩軍記」は桔梗の方と河内介とが「密通」したことを暗に諷して、恋愛から陰謀が成立したように匂わせているけれども、武州公は色仕掛で婦人の信頼を贏ち得るような柄でもないし、そんな色魔的手腕があったろうとも思われない。