則重が凡庸の器であるとすれば、譜代の臣と云う訳でもない河内介がそう云う大志を抱くのは戦国の世の英雄として有りがちのことであり、彼がその大志を遂げるためにたま/\彼女の復讐心を利用する気になったとしても不思議はない。
彼女は夫則重が乱世に処して到底その領土を保ち難いのを知っていたであろうから、むしろ河内介の野心を是認し、彼に利用されながら自分も彼を利用して復讐を成し遂げ、かた/″\彼の温情に縋って、せめて夫の死後に於ける二人の子女の安全を謀った方が、結局筑摩家の血統のためにも得策であると思ったでもあろう。
彼女と河内介とが何処まで相互の利害関係を打ち明けて語り合ったかは判然しないが、少くとも、彼女は彼の「味方をする」と云う意味をそう云う風に受け取り、河内介も亦胸中の秘密を押し隠して彼女の解釈するまゝに任せ、両人の間に云わず語らず一種の黙契が出来上ったのであろう。