それでなくても牡鹿山の秋が更けて、村しぐれをさそう風のひゞき、落葉のおとが身に沁むのに、分けても奥御殿は火の消えたようにひっそりとして、夜になると前栽の草葉のがさ/\と鳴るのが物凄く、とき/″\遠くの方で鹿や狐の啼くこえが谷間にこだまする。
ぜんたい則重は、若い腰元共を集めて琴を弾かせたり、舞を舞わせたりすることが大好きだったので、ちと気晴らしにそんな催しをすればよいのだが、近頃は夫人とさし向いでしんみり酒を酌み交すぐらいが関の山で、とんとそう云う陽気な遊びをしない。
それと云うのが、一つは春の花見の宴の出来事に懲りたせいでもあるが、一つは、元来彼自身が声自慢で、何かと云うとすぐに小唄を謡って聞かせたものだのに、残念ながら発音に故障を生じ、息がすう/\洩れると云う現状では、折角の美音も如何ともしようがない。