なぜなら、夫人の品のよい端麗な顔は、そう云う風に真面目に打ち沈んでいる時が、最も美しく、気高く感ぜられるからである。
織部正はいつもその夫人の姿を、燈火にくっきりと照らし出される彫刻的な鼻や唇の線を、惚れ/″\とした眼つきで横の方から眺めながら、「己も随分いろ/\な女を知っているけれど、やっぱり育ちのよい上﨟は格別だなあ」と、そう思っては、さも感心したような溜め息を洩らしたり、又たまらない嬉しさが込み上げて来たように、急ににや/\笑い出したりした。
取り分け今宵の桔梗の方は、その奉書紙のような白い頬に三分の酔いを発しているのが、典型的な、やゝ固過ぎる面立ちに、云うに云われない婀娜っぽさを添えているのであるが、それにしても、若し河内介がこう云う場面をそっと隙間から覗いたとしたら、どんな気持がしたことであろうか。