某餘儀なき仔細に仍て昨年以来御鼻を狙ひ候処今宵首尾よく本懐を達し満悦不過之候決而々々御命迄は不申受これより後は御心安かるべく候
こう書いてあったと云うその書面の文句を、老臣たちはどう解釈したか分らないが、これは河内介の深い用意の存するところで、一旦夫人の委嘱を成就した彼に取っては、速に奥御殿の警備が解かれ、たやすく夫人に接近し得る機会の来ることが望ましいので、こうして城中の不安を除こうと謀ったのであった。
が、此の親切な忠告にも拘わらず、家中の武士は一層油断なく任務に就くように命ぜられ、夜な/\奥庭の木の間を照らす篝り火の数は殖やされる一方であった。