やがて、幾程もなく幽閉の期間が過ぎて、再び出仕を許されるようになったけれども、彼の懊悩は引きつゞいて止む時もなかった。
以前のように自分が月番に廻されていれば、あの恋の通い路―――なつかしい石崖の下へ近寄る便宜もあるけれども、最早やその好ましい勤務が自分に任ねられる折とてもなく、おまけに近頃は重臣の者が監督して水も洩らさぬ警衛振りを示していると云う有様であるから、文の遣り取りは愚か、風の便りにも奥御殿の消息を知る由がない。
のみならず気がゝりなのは、毎日出仕するけれども織部正があれきり正体を見せないことである。