と、云いながら彼は、膝の前にあった盃を一と息に乾した。
或る夜御前へ出仕致候処、奥方も御同列にて御入ありしが、瑞雲院様愚老を側近くお呼び被成、不便なれ共某今宵汝が首を所望致すぞと仰せられ、既にお手討にも可被成御様子也、されど全く身に覚えなき事なれば大いに仰天仕、さま/″\に歎き悲しみけれども更にお聴入なく、今は所詮逃れぬところと覚悟を極め候が、松雪院様日頃より慈悲深きおん方にていたくおんあはれみ被遊、言葉をつくして御執成被下候処、俄にから/\とお笑ひなされ、いや/\これは座興なるぞ、某いかで罪なき者を害せんやとて、汝はさても好運の奴かな、但し一命を助くる代りに、暫く死人の態を装ひ此の場に於て首の真似を致し候へ、さあらば殺すに及ばざることなりと被仰れば、こは又いかに成行ぞと驚き呆れ候間に、お座敷の畳を一畳ばかり取除けられ候、さてその下の床板を二尺程切取らせられ、汝床下にありて此の穴より首を出すべしと被仰候
つまり道阿弥は、その穴から顔だけ出して、いかにも首が床の上に置かれてあるような風をするのである。