彼が十五歳の花嫁を自分の好きな鋳型に養成しようとした試みは、その頃すでに失敗に帰していたのであるから、彼の心は、再び牡鹿山の恋人の方へ、前にも増した切なさを以て惹きつけられていたと見ることが出来る。
而も彼の恋情を充たすのには、牡鹿城を攻め落して筑摩家の本拠を覆すと共に、織部正の一切の所有を、―――その夫人をも中に籠めて、―――完全に此方へ奪い取るのに越したことはないのである。
だから此処でも彼の領土慾と性慾とが都合よく一致した訳であって、英雄の心事を妄りに忖度することは出来ないにしても、此の場合は事に依ると、後者の方が一と際強く彼の行動を促進したのであるかも知れない。