しかしその敵がこんな所へひょっこり出て来ようとは豫期していなかったことなので、視線が合った咄嗟の感じは、「憎い」と思うよりも、「あ、顔を見られた」と云う極まりの悪さが先に立った。
事実を云うと、公は往年夫人の閨へ通いつゞけた夜な/\、餘所ながら此の奇態な顔を隙見させて貰っては快感に浸っていたので、今日が始めてなのではないが、当人はそれを知る筈がないから、鼻が缺けて以来秘し隠しに隠し通して来たものを、今自害しようとする矢先に運悪くも敵に見られたと思うと、日頃の用心が水の泡になった恨めしさやら口惜しさやらで、全く憂鬱になってしまった。
彼は何よりも家名を汚すことを恐れた。