だが、桔梗の方の心境がそう云う風に変ったことは、取りも直さず武州公の空想が幻滅に終ったことを意味する。
功名と恋愛の二た股をかけて筑摩家を攻め亡ぼした公は、誰に憚ることもなく逢う瀬を楽しめる時期になって、折角城中へ迎え入れた恋人の態度が昔のようでないのを見ては、どんなにか失望したであろう。
蓋し桔梗の方としては、父の恨みを報いた以上夫に何の含むところもあるべき等がなく、今は却って己れの犯した恐ろしい罪業に戦いていたであろうから、再び公と道ならぬ恋をつゞける気力がなくなってしまったことも、亦甚だ自然である。