徳川末期文学には溌溂たる描写がことに欠けている。
自然と人事との交錯する或光景の描写の不思議にうまいのは、「源氏」「枕」「大鏡」などの、平安朝ものに見られるのだ。
「武州公秘話」のうち、法師丸が老女に連れられて、敵の首に装束をしている婦女子の部屋を訪ずれるあたり、織部正が曲者に鼻をもがれるあたり、異様な光景の叙事たるに留まらず、或幻影の印象が読者の心に残るのは、この作者が平安朝古典伝来の描写力を有っているためであろう。
徳川末期文学には溌溂たる描写がことに欠けている。
自然と人事との交錯する或光景の描写の不思議にうまいのは、「源氏」「枕」「大鏡」などの、平安朝ものに見られるのだ。
「武州公秘話」のうち、法師丸が老女に連れられて、敵の首に装束をしている婦女子の部屋を訪ずれるあたり、織部正が曲者に鼻をもがれるあたり、異様な光景の叙事たるに留まらず、或幻影の印象が読者の心に残るのは、この作者が平安朝古典伝来の描写力を有っているためであろう。