その辺の人にきいてみますと、「そら料理屋違いまッしゃろ、宿屋でっせ」いうのんで、「何処です」いいますと、「じっきこの先のろうじの奥だ。
――それがあのう、宗右衛門町や心斎橋筋のつい裏通りですのんに、わりに人通りのない暗い横丁なんでして、芸者の館やの、小料理屋やの、宿屋やのが多いのんですが、そういう家がみんなしもたやのようにひっそりとした間口の狭い地味な構えなんです。
そんで教せられたろうじの入り口い行てみますと、「御旅館井筒」と小そうに書いた軒燈が出てますのんで、「お梅どん、あんた此処で待ってでわ」いうて私だけ這入って行て、旅館いうても何や曖昧なややこしい家らしいのんがろうじの突きあたりにあるのんで、格子あけて暫くもじもじしてましたけど、台所の方で誰や一所懸命に電話かけてるらしいて、なんぼ呼んでも出て来えしません。