――それがあのう、宗右衛門町や心斎橋筋のつい裏通りですのんに、わりに人通りのない暗い横丁なんでして、芸者の館やの、小料理屋やの、宿屋やのが多いのんですが、そういう家がみんなしもたやのようにひっそりとした間口の狭い地味な構えなんです。
そんで教せられたろうじの入り口い行てみますと、「御旅館井筒」と小そうに書いた軒燈が出てますのんで、「お梅どん、あんた此処で待ってでわ」いうて私だけ這入って行て、旅館いうても何や曖昧なややこしい家らしいのんがろうじの突きあたりにあるのんで、格子あけて暫くもじもじしてましたけど、台所の方で誰や一所懸命に電話かけてるらしいて、なんぼ呼んでも出て来えしません。
「今晩は」「今晩は」と大きな声でいうてるうちにやっとのことで仲居さんが出て来まして、顔見るなりこっちがなんにもいわん先にちゃんと心得てる様子で、「どうぞお上り」いうて狭い段梯子を二階い連れて行きまして、「迎いのお方はんがお越しになりました」いいながら座敷の襖開けるのんです。