「今晩は」「今晩は」と大きな声でいうてるうちにやっとのことで仲居さんが出て来まして、顔見るなりこっちがなんにもいわん先にちゃんと心得てる様子で、「どうぞお上り」いうて狭い段梯子を二階い連れて行きまして、「迎いのお方はんがお越しになりました」いいながら座敷の襖開けるのんです。
這入ってみますと三畳ぐらいな次の間やのんで、二十七、八の色の白い男の人がたった一人畏まってすわってまして、「失礼ですが、光子さんの友達の奥さんですか」いいますよって、「そうです」いいますと、急にしゃちこ張ってぺたッと畳い頭擦りつけて、「今夜の事は何と申し上げたらよいか、お詫びのしようもないのんです。
いずれこの事につきましては光子さんから申訳せんなりませんのんですが、何とも合わす顔ないいうておられますし、それに着物ありませんのんで、まことに申しかねますけどもとにかく着換え貸してもろて、その上でお目にかかりますよっていうのんです。