その男いうのんが、いかにも光子さんの好きそうな輪郭の整うた女のような綺麗な人で、眉毛のうすいのんと眼の細いのんがこすそうな感じ与えますけど、私かって見た瞬間に「美男子やなあ」思たぐらいな顔だちで、この人も着物ないはずやのんに縞銘仙の単衣を着てキチンとしてましたのんは、あとで聞きましたのんですが宿の男衆の着物を一時借ってましたんやそうです。
「着換えは此処い持って来ました」いうて風呂敷包渡しますと、「大きに済みませんことです」と押し戴くようにして受け取って、部屋の隅の方の境の襖あけて奥の座敷い包押し込むと、急いでまたそこ締めてしもたのんで、ちらッと枕屏風が見えただけでしたけど。
その晩のことそんなふうに一々委しいにいいましたらえらい長うになりますのんですが、私はその場合届けるもんは届けてしもたし、それに男がいるのんやったら会うてもしょうがない思て、お金三十円紙に包んで、「先イ帰りますよってこれ光子さんに上げて下さい」いうたのんですが、「まあ何卒そないおいいにならんで待ってて下さい、今に出て来られますから」いうて、無理にその男が引き留めるのんです。