その晩のことそんなふうに一々委しいにいいましたらえらい長うになりますのんですが、私はその場合届けるもんは届けてしもたし、それに男がいるのんやったら会うてもしょうがない思て、お金三十円紙に包んで、「先イ帰りますよってこれ光子さんに上げて下さい」いうたのんですが、「まあ何卒そないおいいにならんで待ってて下さい、今に出て来られますから」いうて、無理にその男が引き留めるのんです。
そうして改まって私の前いすわり直しながら、「実はこの事は、ほんまは光子さんから申さんならんのんですが、僕は僕の立ち場として説明せんならん思いますのんで、一往聞いて下さいませんか」いうて、――つまり光子さんは自分でやといいにくいもんですよって、着物着換えてる間にその男が代って話するように、段取りがきまってたらしいのんです。
そんでその男、――ああ、そうそう、男はその時「財布を取られてしもたのんで名刺ありませんけれど、僕は船場の徳光さんの店の近所におります綿貫栄次郎いうもんです」いいました。