そんでその男、――ああ、そうそう、男はその時「財布を取られてしもたのんで名刺ありませんけれど、僕は船場の徳光さんの店の近所におります綿貫栄次郎いうもんです」いいました。
――その綿貫いう男の話聞いてみましたら、その人と光子さんとは、まだ光子さんが船場の方に住んでなさる時分、去年の暮頃から愛し合うようになって結婚の約束までしたいうのんです。
ところが今年の春になってMの方との縁談が持ち上って来て、とても二人は結婚出来そうにもないようになったのんですが、それが同性愛の噂のためにええあんばいに破談になった。