その襖の向うでは最前こそこそ着物着換えてるらしい物音がしてましたのに、もうその時分にはしーんと静まり返ってしもてて、こっちの話に一所懸命耳を澄ましてるようでしたが、声かかってから二、三分もたった頃にやっと襖がごそッいうて、そこが少しずつ、一寸二寸ぐらいずつ開いて、眼エの周り真つ紅いけに泣き脹らした光子さんが出て来ました。
その時どんな顔してなさるか見てやりたい思たんですが、ちらッと視線打つかると慌てて俯向いて、男の蔭に寄り添うように音もささんとすわってしまいなさったんで、脹れ上った眼瞼と、長い睫毛と、高く通った鼻筋と、噛みしめてなさる下唇とが見えるだけで、両手をこういう風にこう、――八つ口のところい突っ込んで、体をねじらして、前のはだけたのも直さんと身イ投げ出したようにしてなさるんです。
そんで私は光子さんのそうしてなさる姿眺めてるうちに、ああこの着物が揃いの着物やってんなあ思うにつけても、それを拵えた時分のことや、その着物着て一緒に写真撮ったりした事が考え出されて、またジリジリ腹立って来て、ええ、こんなもん、拵えんといたらよかった、いっそ飛び着いてずたずたに引き裂いてやろか知らんと、――ほんまに男がいエへんかったら、それぐらいなことしたかも分れしませんねん。