綿貫の方には親いうてもお母さんと、後見してる叔父さんとがあるだけやさかい、一ぺん光子さんが会うてくれて、「こないこないの訳ですよって、いずれ家から表向きに申し込んで来たら黙って承知して下さい」いうたら、お母さんはよう分ってくれる、叔父さんかて、わざわざ人の欠点あばいて折角の縁談ワヤにするようなことせえへんいうのんですけど、光子さんの考えでは、結婚申し込む先に身元調べるに違いないよって、どないしたかて知れる、そんなことして平地に波瀾起すより当分内証で会うてる方ええやないか、ぜんたい綿貫の方には別に結婚せんならん理由ないのんで、そんな体で無理な相談やいうこと自分かて分ってますねんけど、光子さんの方がそないいつまででも一人でいられるはずないさかい、こんなりでいたらもうつい逃げられへんやろか、それが心配で仕方あれしませんねん。
それに口でいうのんとお腹の中とはまるきり反対で、出来るもんなら一人前の男と同じに奥様持って暮らして行きたい、世間欺すばっかりやのうて、自分の心まで欺して、ちょっとも外の男と違たとこないように思てたいいう気イあるばっかりか、光子さんみたいな人一倍綺麗な奥様持って、世間の奴らアッといわしてやりたいいう虚栄心まであるのんで、せえだい焦ってて「そんな一時逃れいうて、ええ縁談あったら行くつもりやろ」いうようなイヤ味いいますねん。
そいで光子さんは、どない親にいわれてもきっと余所い嫁に行けへん、今のとこ差し迫った縁談あるのんでもなし、そのうち自分も二十五になったら自由結婚出来るようになるし、きっとええ折あるやろさかいまあまあもうちょっと辛抱してて、……そやなかったら死ぬより外に道ないいうて、ようよう納得さしましてんと。