そんな工合で初めはただ、私が光子さんモデルにして絵エ書いてるいうこと聞きなさったり、道で擦れ違た時の素振や何かから、ふっと思いつきなさっただけですねんけど、私の方があんまり真剣で熱烈でしたさかい、だんだん利用する心持からほんまの愛情に変って行きなさった。
そら私かて全然純真なとこばっかりやあれしませんけど、そいでも綿貫とは比べ物にならんほど精神的な気持ありましたよって、知らん間にそれに絆されなさって、――それと一つには、綿貫みたいな誰にも相手にしられんような人間の慰め物にしられるのんと、同性の人から観音様の絵にまで画かれて崇拝しられるのんとはえらい違いですよって、私というもん出来てから持ち前の優越な感じ、――自尊心戻って来て、始めて世の中が明なったような気イしたいいなさいますねん。
そいで綿貫にはこないこないの噂あるのん幸いにこないな人道具に使てる、そないした方が家空けるのんにも工合ええさかいいうてなさったのんですが、それをそんなり真に受けるような綿貫と違いますよって、うわべは「そうですか、そらその方がええでしょう」いいながら心の中では嫉妬の刃研ぎすましてて、何ぞ事さいあったら私との仲割いてやろ思てたのんに違いないいうのんは、あの笠屋町で着物盗まれた事件にしたかて、今考えたらどうも怪しい、あの時別の座敷で博奕打ってるもんあったとか、刑事乗り込んで来たとかいうのんはみんな根エも葉アもないことで、彼処の家の人に頼んで不意に光子さんビックリさして、逃げてる間に着物すっくり隠すように初めから段取り極めといた。