「いや、その様子に怪しいとこあった」いうて、自分がカマかけたりしますさかい人の態度まで疑ごうて、――それが、ただの嫌がらしと違て、綿貫にしたら疑がう訳あるいうのんは、自分かて光子さんと私との仲感づいてたように、私にしたかて綿貫と光子さんとの仲知らんといたいうはずがない、知って今まで焼餅も焼かんといたのんは、「あの男は不具な人間や」いうこと聞かされて安心してたのんやろ、そやなかったらまさか黙ってる訳あれへん、そない思て、それがお腹にありますのんで、私を笠屋町の宿屋に呼んだいうのんも、自分はしょっちゅうこんなとこで光子さんと会うてるぐらいで、性的欠陥のある男やないいうこと見せつけるつもりもあったのんです。
光子さんかて、「どうぞ姉ちゃんと別れて下さい」と正面から手エついて頼まれなさったら、「イヤ」とはいえん義理ですのんに、あんじょうペテンにかけられた上にそないエゲツのう疑がわれたら、意地でも謀の裏かいてやりとうなりなさるし、あんな心にもないことして仲悪なった思いなさったら、なおのこと未練残って、どないぞして仲直りしたい、せめて一ト眼だけでも会いたい思いなさいましてんけど、訪ンねて行ってもたやすうは会うてもらえんやろし、会えたところでどないいうていい訳しょう、今更何いうたにしても気持直してもらえへんやろと、いろいろ考えなさった末あの本のこと思い出しなさって、……あれはほんまに光子さんには用のない本で、やっぱり中川の奥様に貸しなさったのんやそうですが、あの時のことは、ふっとそれからヒント得なさったのんで、SK病院の名前騙ってこない電話かけよ、こんな時にはこないしょういう工合に、何日もかかって一所懸命考え抜きなさった。
もちろん誰にも相談せんと、自分ひとりであんだけの段取り工夫しなさって、ただ電話かけるのんに女の声やったらいかん思て、お梅どんに訳話して出入りの洗い張り屋の男頼んだ。