そらきっと「姉ハ弟ト光子ト正式ニ結婚セシムルタメニ努力シ」いうのんと、「弟ガ捨テラレタル時ハ姉ハ光子ト交リヲ絶チ」いうのんと、「両人ハ他ノ一方ノ承諾ヲ経ズシテ無断ニ光子ト逃亡シ、所在ヲ晦マシ、モシクハ情死スル等ノ行為ヲナサズ」いうのんとが、――殊にこの一番しまいの条件が眼目やのんで、その外のことは勿体らしいに見せかけるための附け足りやと、光子さんはいいなさいますけど、そいだけのことにわざわざこんな尤もらしい形式取り交して、あんな大騒ぎせいでもよさそうなもんですのんに、そんな法律くさい文句並べるのんがあの男の癖なんやそうで、そないいうたら、この頃光子さんの綿貫に対する態度だんだん焼け糞になって来なさって、どないなとなれいうような素振見せなさるもんですさかい、綿貫の方も近いうちにただでは済まんような事起るいう予覚感じてて、蔭い廻って何ぞ悪さするような様子見えてた。
そいでこないだ三人で松竹座い行った時にしたかって、「あんたそないひがんでんと一ぺん姉ちゃんに会うて御覧、そしたら姉ちゃんどんな人やか、あんたの秘密知ってるかどうか、大概話しぶりでも分るやろ」いうて連れ出しなさって、そないしといたら、内証でけったいなこといわれたりする危険ないやろ思いなさったのんですけど、あんな工合に妙にこじれて口も利かなんだのんですと。
「そしたらあない空々しいしてて、蔭でそうッと手エ握ろいうことあの時から考えてたのんか知らんで」「そらどや知らんけど、あてがあの人放ったらかして姉ちゃんと逃げるのんやないかいうで、常時心配しててんし。