何しろ私にしましたら、あれからこっち光子さんが別人みたいにしおらしいに見えて、今までは美しい悪魔みたいに思われてたのんが、今度は急に鷲に狙われてる鳩みたいに思われて来て尚更いとしさ増したとこい、会うたんびに心配そうな様子してなさって前のような花やかな笑顔見せなさること一日もないのんで、まさかとは思てても短気なことでもしなさったらえらいこッちゃ思たら、気が気やあれしません。
そいで私、「光ちゃん、あんた栄ちゃんの前ではせめてもうちょっと浮き浮きしてなさいや、そやなかったらまた感づかれてどんなこといい出すか分れへん」いうて、「きっと、きっと、世間に顔向けならんように叩きつけてやるさかい、死ぬほどつらいことあってもちょっとの間辛抱してなさい」いいましてんけど、さてどないしたら綿貫叩きつけること出来るか、人欺したり陥れたりする計略は向の方が上手ですさかい、なかなかええ考出て来えしませなんだ。
私はそないいうてるうちにも、また綿貫がろうじの外で待ったりしてたらどないいい抜けしたらええのんやら、あんな誓約書の条件守らんかてちょっとも疚しいことあれしませんけど、そいでも約束破ってるのんがやっぱり何や済まんような気イしてて、いつもろうじ出て来るとき、またあのぞっとするような声が後ろから「お姉さん」いエへんかとビクビクしてたのんですが、ええあんばいにあんなりになってますのんで、あんな男のこッちゃさかい、誓約書さい交してしもたら兄弟も糞もあったもんやない思てるねんやろ、結局その方がこっちも助かる思てましてん。