「そんなりでかめへんいうたんやけど、浴衣がけでは失礼やいいなさって、着物着かえてなさったのんで、……」と、そないいいながら夫の様子窺うてますと、折れ鞄傍に置いて、キチンと洋服の膝がしら揃えてすわって、「かいって御迷惑か思いましたけど、あんなり御無沙汰してますし、一ぺんお見舞いに上らんならん思てたとこいちょうどこの前通りかかりましたさかい」いうて、気のせえか光子さんのお腹の辺ジロジロ見てるみたいですねん。
光子さんは「いいえ、うちこそいッつも姉ちゃんに我が儘ばっかりいいまして」――と、自分のために避暑に行くのん止めてしまいなさったのん気の毒やとか、姉ちゃんのお蔭で淋しい思い慰めてもろて、大層有難い思てるとか、あんまり口数利きなさらんと殊勝らしい聞えるようにあんじょういいなさって、団扇で帯の上のとこ隠すようにしてなさるのんですが、お春どんが気イ利かしてくれたと見えて、昼間でも電気点さんならんような薄暗い部屋の一番隅の方にすわってなさって、なんせ風通しの悪い上にお腹にいろいろなもん詰めてなさるよって、ずくずくに汗かいてはあはあ息してなさる恰好いうたら、いかにも本物らしいて、「巧いこと芝居してなさるなあ」思いましてん。
夫は直きに座ア立って、「えらいお邪魔しました、どうぞまたお出かけになれるようになったら遊びに来て下さい」いうて、「もうおそいさかいお前も一緒に帰ったらええ」いいますのんで、「何ぞ訳あるに違いないよって今日はこれで帰る。